
先日、当園「ANTHICAL」にあるお客様が訪ねてこられました。
その方の車の後部座席に乗せられていたのは、数年前に当園で購入していただいたアンスリウム。
今回はその「植え替え」のご相談でした。
拝見すると、日頃のお手入れで少し気掛かりな点があり、株にも疲れが見えていました。
私はプロとして、いくつかのアドバイスをさせていただきました。
「効率」よりも大切なもの
ビジネスとしてドライに考えれば、手早く植え替えを済ませてお返しするか、
あるいは「もう寿命ですから、新しい元気な株に買い替えませんか?」と提案するのが
一番効率的かもしれません。
しかし、私たちは知っています。
わざわざ重い鉢を車に積み、遠方にある当園まで足を運んでくださる方の胸の内には、単なる「園芸」を超えた深い愛着があることを。
お話を伺うと、そのアンスリウムは数年前のご自宅のリフォームの際、旦那様が「家を彩るために」と選んで買われたものだったそうです。
そして、その旦那様は少し前に他界されていました。
その背景を知ったとき、「新しい方が綺麗ですよ」なんて言葉は、口が裂けても言えませんでした。
その鉢は、ただの植物ではないのです。
旦那様が生前大切にされ、奥様と共に過ごしてきた「家族の記憶」そのものでした。
なんとしてでも、この鉢を回復させたい。 その一心で、私たちは作業をさせていただきました。
アンスリウムにしかない「時間」の価値
そのお客様のお宅には、もう一鉢、別の植物があるそうです。
それはリフォーム時に置かれた立派な「コチョウラン」。
しかし、花が落ちてからは二度目の花を咲かせられずにいるとのことでした。
コチョウランは、特定の時期に満開のピークを合わせ、圧倒的な華やかさを楽しむ植物です。
その美しさは見事ですが、素人が再びあの満開を再現するのは、並大抵のことではありません。
対して、アンスリウムは少し違います。
アンスリウムは一つの株の中で、古い葉があり、新しい芽があり、蕾があり……と、「異なる世代」が共存している植物です。
一斉に満開になることはありませんが、その代わり、適切なお手入れさえ続ければ、一年中どこかで新しい花が顔を出してくれます。
爆発的な一瞬の輝きではないけれど、ずっと寄り添い、途切れることなく変化し続けてくれる。
「長くお付き合いする」という意味において、これはアンスリウムにしかない唯一無二の価値ではないでしょうか。
暮らしのそばに、ずっと
旦那様が遺されたアンスリウムは、これから新しい土で、再びゆっくりと新しい花を咲かせる準備を始めます。
時が経ち、景色が変わっても、植物は生き続けます。
その一歩一歩の成長が、残された方の心を少しずつ癒やし、前を向くきっかけになれば。
単に花を売る場所ではなく、そんな「人生の伴走者」としての植物を支える場所でありたい。
そう強く再確認した一日でした。
またいつか、あの鉢に新しい花が咲いたというお話を聞ける日を、心から楽しみにしています。