
昨今、私たちの生活は驚くほど便利になりました。
スマホを数回タップすれば、翌日には欲しいものが届くAmazonのようなインフラ。
「どこで買うのが最安値か?」が一瞬でわかる比較サイト。
消費者として、これほどありがたいことはありません。
しかし、「生産者」という立場でこの世界を見たとき、ふと強烈な違和感を覚えることがあるのです。
今日は、当園がアンスリウムという花を作りながら感じている「生産のリアル」について、少しお話しさせてください。
「ポチれば届く」の裏側にある、泥臭い時間
正直に言います。
アンスリウムを商品にするには、とてつもなく時間がかかります。
工場で金型にプラスチックを流し込むのとは訳が違います。
相手は生き物です。
特に近年の異常気象は、私たち生産者にとって死活問題です。
猛暑、急な冷え込み、日照不足……。自然のご機嫌を伺いながら、
プロとして一定の品質を保つために日々戦っています。
それでも、時には天候の影響で品質が揺らぐこともある。
それが農業のリアルです。
しかし、クリック一つで完璧な商品が届くことに慣れすぎた現代社会において、この「生産の過程にある泥臭さ」への想像力は、少しずつ失われているように感じます。
なぜ、誰もやらない「生産」をやるのか?
花き業界を見渡しても、インターネットを活用して参入してくるのは、ほとんどが「小売(売る人)」です。「生産(作る人)」としての参入は非常に少ない。
理由はシンプルです。
「作る技術」は、一朝一夕では身につかないから。
そして、割に合わないほど大変だからです。
インターネットを使えば「売る」ことは以前より容易になりました。
でも、「作る」ことはそうはいきません。
コメ農家さんが減っているのと同様、花の作り手も減り続けています。
需要はあるのに、供給(作り手)が減っていく。
一見ピンチに見えるこの状況を、私たちANTHICALは「ビジネスチャンス」だと捉えています。
便利な時代だからこそ、「不便なもの」を作る誇りを
みんながやらないからこそ、そこに価値がある。
簡単に真似できない技術だからこそ、磨く意味がある。
生活は便利で豊かになりましたが、どこか「生きづらさ」を感じるのは、すべてが効率化されすぎて、「手間暇かけることの尊さ」が見えなくなっているからではないでしょうか。
私たちは、ただ花を作って売っているわけではありません。
自然と向き合い、時間をかけ、試行錯誤した末に生まれる「生命力」をお届けしています。
(後編へ続く:次は、私たちが「誰に」花を届けたいか、という少し踏み込んだ話をします。)